団塊世代の大量引退で、日本のものづくりがストップする現実 ~加工賃の見直しで持続可能性を確保~

現代の日本のものづくり産業は、かつてない変革の時代に突入しています。

労働人口の減少、高齢化、そして若者のブルーカラー離れが進行する中、業界全体が持続可能な体制を築くためには、大胆な改革が必要です。

特に重要なのは、加工賃の見直しによって企業基盤を強化し、未来のものづくりを支える環境を整えることです。

団塊世代引退による労働力減少

団塊の世代(1947~1949年生まれ)の引退により、日本の製造業や建設業で働く労働力が急速に減少しています。

この世代は約804万人と非常に多く、そのうち約25%が製造業や建設業などのブルーカラー職に従事していました。

しかし、現在の22歳~24歳の若手世代は人口約358万人であり、ブルーカラー従事者はさらに少ない約45万人に過ぎません。

つまり、5人が引退するのに対し、1人しか補充されない状況が現実となっています。

賃上げの必要性

このような状況下で、加工賃の値上げは単なるコスト増ではなく、以下のような目的を果たすための戦略的な投資です。

  1. 若手人材の確保と育成
    若者にとって魅力的な職場環境を作るには、適切な報酬が欠かせません。製造業や建設業が給与水準を引き上げることで、職種選択の幅が広がる若者にブルーカラー職種を選んでもらえる可能性が高まります。
  2. 技術継承の促進
    ベテラン職人が引退する中で、若手がその技術を受け継ぐことが重要です。賃上げはその環境づくりに直結します。
  3. 持続可能なものづくりの実現
    高い加工賃を通じて適正な利益を確保し、設備投資や自動化の推進、従業員教育に充てることで、業界全体の生産性を向上させます。

最近の給与と設計労務単価の動向

日本の給与や労務単価にどのような変化が起きているかご存じでしょうか?近年、大手企業を中心にホワイトカラー職種では初任給の大幅な引き上げが進んでいます。

たとえば、2025年現在、一部の大手企業では大卒初任給が30万円から40万円に達する例もあります。これは、優秀な人材を確保するために企業間での競争が激化していることを如実に示しています。給与水準の引き上げがなければ、若者に選ばれる業種となることが難しい状況になってきているのです。

さらに、建設業界における設計労務単価も大きな変化を見せています。国土交通省のデータによると、2019年度から2023年度にかけて設計労務単価は、多いところでは約20%上昇しています。特に都市部ではこれ以上の伸びを見せており、この傾向は物価高騰や労働力不足の影響を大きく受けています。

これらのデータは、製造業や建設業においても、賃金引き上げが避けられない現実を示しています。私たち下請け企業が加工賃の見直しをお願いするのは、このような背景があるからこそです。もしこの流れに対応できなければ、現場で作業する人手が不足し、日本のものづくり産業の国際競争力がさらに低下してしまう未来が現実のものとなるかもしれません。

政府が物価上昇を賃上げ要請で解決しようとしても、加工賃の単価が上がらない限り、下請け企業である私たちにはその実現が困難です。加工賃の見直しがなされることで初めて、労働者への適正な賃金の支払いが可能となり、産業全体の持続可能性が高まるのです。

加工賃見直しの提案

もちろん加工賃の見直しはセンシティブな問題であり、単に値上げをお願いするだけではなく、お互いに価値を見出せるコミュニケーションが必要であると考えます。

  • 透明性の確保
    加工賃の内訳を完全に明確にすることは難しい部分もありますが、その背景や値上げの理由をできる限り説明し、信頼関係の構築に努めます。
  • 顧客へのメリットの提示
    賃上げに伴い、品質向上や納期厳守、生産性向上の実現に向けて全力で努力してまいります。
  • 業界全体の課題として共有
    労働人口減少という社会的課題に対して、元請け企業やエンドユーザーの皆さまと一緒に取り組んでいけるよう、ご理解とご協力をお願いしたいと考えています。

エンドユーザー様や元請け企業様へのお願い

私たち下請け企業は、単なる価格の引き上げを求めているのではありません。

ものづくりの未来を守るため、また、皆さまに高品質な製品やサービスを提供し続けるための投資として加工賃の見直しをご理解いただきたいのです。

ぜひ、この取り組みを通じて共に持続可能な産業を築いていきましょう。